近江荒都・志賀の歌枕の歌

   
      近江の荒れたる都を過ぎし時、柿本人麻呂朝臣の作れる歌(万葉集)

玉襷 畝火の山の 橿原の 日知の御代ゆ 生れましし 神のことごと 樛の木のいやつぎつぎに 天の下 しろしめししを 天みつ 大和を置きて あをによし 奈良山を越え いかさまに 念ほしめせか 天離る 鄙にはあれど 石走る 近江の国の 楽浪の 大津の宮に 天の下 知らしめしけむ 天皇の 神の尊の 大宮は ここと聞けども 大殿は ここと言へども 春草の 繁く生ひたる 霞立つ 春日の霧れる ももしきの 大宮処 見れば悲しも 
 
         反歌

楽浪の志賀の唐崎幸くあれど大宮人の船待ちかねつ 

楽浪の志賀の大わだ淀むとも昔の人にまたも逢はめやも

近江の海夕波千鳥汝が鳴けば心もしのにいにしへおもほゆ


      高市黒人の近江の古き都を感傷みて作れる歌(万葉集)

いにしへの人に我あれや楽浪の古き都を見れば悲しき

楽浪の国つ御神のうらさびて荒れたる京見れば悲しも

かくゆゑに見じといふものを楽浪の旧き京を見せつつもとな
 
 
楽浪の大津宮は名のみして霞たなびき宮木守なし
柿本人麻呂

柿本人麻呂集

荒れ果てし志賀のふるさと来てみれば春こそ花の都なりけれ

京極為兼

新拾遺集

楽浪や志賀の都の花盛り風より先に問はましものを

源実朝

金塊集

楽浪や志賀の都は荒れにしを昔ながらの山桜かな

平忠度

千載集

木の葉散る志賀の都の庭の面はその跡と見るいしずゑもなし

源頼政

源三位頼政集

楽浪や志賀の浜松朽ちせぬぞ古き都のかたみなりける


三条実忠


新続古今集


荒磯の波に桜の寄りくるは志賀の花園風や吹くらむ

覚性法親王

出観集

近江なる志賀の花園里荒れて鶯ひとり春ぞ忘れぬ

後鳥羽院

後鳥羽院御集

楽浪や志賀の花園見るたびに昔の人の心をぞ知る

祝部成仲

千載集

かはらじな志賀の都のしかすがに今もむかしの春の花園

藤原良経

秋篠月清集

今も尚咲けば盛りのいろみえて名のみふりゆく志賀の花園

二条為遠

新後拾遺集

見ずしらぬ世々の昔もしのばれてあはれとぞおもふ志賀の花園

道玄

続拾遺集

あすよりは志賀の花園まれにだにだれかはとはん春の故郷

藤原家隆

新古今集

昔たれ荒れなんのちのかたみとて志賀のみやこに花を植ゑけん


後鳥羽院


続拾遺集


あらしふく花の梢にあとみえて春はすぎゆく志賀の山越え

藤原家隆

新後撰集

散りまがふ花にこころの結ぼれて思ひ乱るる志賀の山越え

慈円

拾玉集

波にたぐふ鐘の音こそあはれなれ夕べさびしき志賀の山寺

藤原良経

秋篠月清集

にほひくる風のたよりを枝折りにて花に越えゆく志賀の山みち

定為

新千載集

梢より散りかふ花をさきだてて風の下ゆく志賀の山みち

伏見院新宰相

新拾遺集

春風の花の吹雪にうづもれて行きもやられぬ志賀の山みち

西行

山家集

山川に風のかけたるしがらみは流れもあへぬもみぢなりけり

春道列樹

古今集

        (「志賀の山越えにて詠める」)
 
   
散りそむる花の初雪ふりぬればふみわけまうき志賀の山越え

西行

玉葉集

袖の雪空の吹雪もひとつにて花ににほへる志賀の山越え


藤原定家


風雅集


花ゆゑに志賀のふるさと今日見れば昔をかけて春風ぞ吹く

後鳥羽院

続千載集

めぐりゆく秋やはもとの秋の空月ぞむかしの志賀のふるさと

後鳥羽院

千五百番歌合

むすぶ手のしづくににごる山の井のあかでも人に別れぬるかな

紀貫之

古今集

 
 
 

 

 


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